インフレ鈍化でも米30年債5%超のなぜ

インフレ指標は弱かった。それでも、米政府が30年間お金を借りる金利は5%を超えた。

8月13日、米財務省が実施した250億ドルの30年国債入札は、最高落札利回りが5.216%となった。米財務省のデータで確認できる今回の入札結果で、2001年8月の5.52%以来の高水準だ。

同じ日の朝に発表された7月の生産者物価指数(PPI)は前月比0.0%。6月のマイナス0.1%に続いて物価圧力の鈍化を示し、前年比も6月の5.5%から4.7%へ低下した。

実際、PPI発表後には米国債が買われ、30年金利も低下した。つまり、「インフレが鈍化したのに30年金利がまったく下がらなかった」わけではない。

それでもなお、30年金利は5%を超えている。

問題はそこだ。

なぜ、FRBの追加利上げ観測が後退する局面でも、米政府は20年以上ぶりの高い金利を払わなければ30年間の資金を調達できないのか。

米30年金利は再び5%台に乗った

FRBのH.15統計を見ると、30年国債の月平均利回りは2025年秋に4.6%台まで低下したあと、2026年春から再び上昇した。

2026年5月には5.03%、7月には5.10%。8月12日の日次値は5.24%だった。

翌13日の30年債入札も5.216%で決まり、米政府にとって30年物の調達コストは2001年以来の高さになった。

ただし、この入札を「米国債が買われなくなった」と読むのも行き過ぎだ。

今回の入札の応札倍率は2.39倍。最高落札利回りも入札直前の市場実勢から大きく外れたわけではない。長期債への需要そのものが消えたというより、投資家が5%を超える利回りを要求していると見る方が正確だ。

PPIは6.5%から4.7%へ鈍化した

足元のインフレだけを見れば、長期金利には低下圧力がかかってもおかしくない。

米PPIは5月の前年比6.5%から、6月5.5%、7月4.7%へと低下した。

それに対し、30年金利の月平均は5月5.03%、6月4.95%、7月5.10%。

もちろん、PPIと30年金利が一対一で動くわけではない。30年債の投資家が考えているのは、来月の物価ではなく今後30年間の金利、インフレ、財政、国債供給だからだ。

ここで重要になるのが、長期金利の構造だ。

長期金利は「将来の政策金利+タームプレミアム」

長期国債の利回りは、大きく二つに分けて考えることができる。

一つは、今後の短期金利が平均してどの程度になるかという政策金利への期待

もう一つが、長期間お金を固定して貸す不確実性に対して投資家が要求するタームプレミアムだ。

タームプレミアムには、将来のインフレが予想より高くなるリスク、金利変動のリスク、国債の大量供給など、さまざまな不確実性が反映される。

サンフランシスコ連銀のモデル推計では、10年国債利回りは1年前の4.29%から、2026年8月12日には4.77%へ上昇している。

その内訳を見ると、今後10年間の平均オーバーナイト金利への期待は3.09%から3.43%へ上昇。一方、タームプレミアムも1.20%から1.34%へ上がった。

ここは重要だ。

現在の長期金利上昇を「財政不安だけ」で説明することはできない。

市場は将来の短期金利そのものも、1年前より高く見積もっている。同時に、長期保有に必要な上乗せ金利も高くなっている。

つまり、FRB要因とタームプレミアム要因の両方が、長期金利を押し上げている。

では、なぜタームプレミアムが下がらないのか

その一因として無視できないのが、米国の財政だ。

米財務省によると、2026年7月の財政赤字は4320億ドル。7月として過去最大だった。

一部は給付日程のずれによるもので、財務省の調整後では3330億ドルとなる。それでも前年同月から18%増えている。

そして2026会計年度の最初の10カ月で、赤字は1兆7990億ドルに達した。

これは、2025会計年度通年の1兆7750億ドルを、残り2カ月を残してすでに上回る規模だ。

赤字が大きければ、政府はより多くの国債を発行して資金を調達する必要がある。

国債の供給が増える一方、投資家の需要が同じなら、価格を下げ――つまり利回りを高くして買い手を呼び込む必要がある。

もちろん、財政赤字がそのまま長期金利を何%押し上げるかを機械的に計算することはできない。

だが、巨額の国債供給が長期債を保有するリスクの一つとして意識され、タームプレミアムを押し上げる方向に働くことは考えられる。

問題は一時的な赤字だけではない

さらに市場が見ているのは、今年の4320億ドルだけではない。

議会予算局(CBO)の2026年2月時点の見通しでは、民間や海外政府などが保有する公的保有債務は2026年にGDP比101%。

2036年には120%まで上昇する。

1946年につけた過去最高の106%も2030年には上回る見通しだ。

CBOは2026年度の財政赤字をGDP比5.8%、2036年を6.7%と見込んでおり、その増加の大きな要因として利払い費の拡大を挙げている。

金利が上がれば利払い費が増える。

利払い費が増えれば赤字が拡大する。

赤字が拡大すれば国債発行が増える。

そして国債供給の増加が、さらに長期金利への上昇圧力になる。

市場が警戒するのは、この循環だ。

「Fedが止まれば長期金利も下がる」とは限らない

今回のPPIを受けて、短期的なインフレ懸念は後退した。

実際、2年債や10年債、30年債の市場金利はいずれも13日に低下している。

それでも30年債入札は5.216%だった。

これは、長期金利がFRBの次の一手だけで決まっているわけではないことを示している。

将来の政策金利。

インフレの不確実性。

巨額の財政赤字。

国債の供給。

そして、それらを30年間引き受けるために投資家が要求するタームプレミアム。

これらすべてが長期金利をつくっている。

前回の記事では、世界の中央銀行が準備資産として金を積み増している動きを検証した。そこで確認したのは、急速な「脱ドル」が起きているわけではない一方、準備資産を「ドルだけ」に集中させない動きが強まっているということだった。

外国中央銀行の米国債需要が消えたわけではない。

だが、米政府が今後も巨額の国債を供給し続けるなら、投資家を引きつけるために高い利回りを提示し続けなければならない可能性がある。

インフレが鈍化しても、長期金利が以前の低い水準に戻るとは限らない。

米30年債の5%超えが示しているのは、金融政策だけでなく、財政そのものが長期金利を決める時代に入りつつあるということなのかもしれない。

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