ビットコインが再び動き始めた。
8月20日、ビットコインは7万ドルを突破し、その後7万5000ドル台まで上昇した。
2025年10月につけた史上最高値12万6272ドルから、2026年には一時5万7735ドルまで下落。最大下落率は約54%に達していた。
そこから突然の急反発である。
果たして5万8000ドル前後が今回の「大底」だったのか。それとも、ビットコイン特有の4年サイクルが今回も機能し、本当の大底は市場で以前から意識されてきた2026年秋に訪れるのか。
その後、著名投資家の側でも興味深い動きが出た。スタンレー・ドラッケンミラーは現物BTCではなく、ビットコイン採掘株4社を新規購入している。そこにはAI向け電力インフラという別の狙いも見える。
結論から言えば、今回の急騰だけで底打ちと判断するのは早い。
ただ、今回のビットコイン市場には過去3回の弱気相場にはなかった現物ETF、機関投資家、上場企業、さらには米政府という新しい参加者がいる。
「4年ごとにバブルが起き、その後70~80%暴落する」というビットコインの古い法則自体が、変わり始めている可能性もある。
なぜビットコインは突然急騰したのか
直接の材料の一つは米国の暗号資産政策だった。
トランプ大統領は8月19日、ホワイトハウスにCoinbase、Robinhood、Krakenなど暗号資産業界の幹部を集め、議会に暗号資産市場の包括的なルールを定める「CLARITY Act」の成立を求めた。
CLARITY Actは、暗号資産が証券なのか商品なのか、SECとCFTCのどちらが監督するのかといった米国市場の長年の不透明さを解消しようとする法律だ。
その前日の18日にはSECも、一定の暗号資産発行を証券規制から除外する新たなルールを提案した。バイデン政権時代の「摘発しながらルールを形成する」姿勢から、暗号資産を既存の金融システムへ組み込む方向へ米国の政策は明確に変わっている。
さらに今回は、米財務省による長期国債の買い戻し拡大もリスク資産を支えた。
ただし、値動きを一気に大きくしたのはショートカバーだったとみられる。数週間にわたって狭い値幅で推移していたBTCが突然上昇したことで、下落を予想していた投資家が買い戻しを迫られた。
したがって今回の急騰を、そのまま「長期投資家による巨大な買い」と解釈するのは危険だ。

図1 ビットコインは2025年10月の史上最高値12万6272ドルから一時5万7735ドルまで約54%下落。その後、8月に7万ドル台へ急反発した(TradingView、Bitstamp)
「2026年秋底」には根拠がある
ビットコインには、おおむね4年ごとに強気相場と弱気相場を繰り返してきた歴史がある。背景にあるのが「半減期」である。
Bitcoinでは約21万ブロックごと、およそ4年に一度、マイナーが受け取る新規BTCの報酬が半分になる。新たに市場へ供給されるBTCが減り、そこへ需要が増えれば価格が上昇する。
実際、2013年にピーク・2015年に底、2017年にピーク・2018年に底、2021年にピーク・2022年に底、という周期が現れている。
Galaxy Researchによれば、過去3サイクルのピークから大底までの下落率は85%、84%、77%と徐々に縮小した。一方、ピークから大底までの時間は、いずれもおよそ12~13カ月だった。
今回のピークは2025年10月。同じ時計が動いているなら、次の大底は2026年10~11月になる。これが「秋底説」の根拠である。

図2 過去3サイクルではピークから大底までの最大下落率が85%、84%、77%と縮小。今回の最大下落率は2026年8月時点で約54%で、底はまだ確定していない(Galaxy Research、TradingView・Bitstampをもとに作成)
Galaxyは6月の分析で、今回の底はまだ形成されていないとの見方を示した。基本シナリオは4万~4万6000ドル。浅い調整なら5万1000~5万4000ドル、厳しい投げ売りが起きれば3万~3万7000ドルまで下落する可能性を示している。
このシナリオが正しければ、今回の7万ドル台への上昇は弱気相場途中の大きな反発ということになる。
しかし、今回は過去と違う
一方、Fidelity Digital Assetsは2026年5月、「ビットコインの4年サイクルは終わったのか」と題した分析を発表した。
Fidelityが注目するのは、今回の相場の「静かさ」である。BTCは2025年10月に12万6000ドルを超えたが、2013年や2017年のような狂乱的なブローオフトップは起きなかった。ボラティリティも長期的には低下している。
背景には市場規模の拡大と機関投資家の参入がある。2026年1月末時点でビットコインETPは約130万BTC、流通量の6.4%を保有していた。さらに1000BTC以上を持つ上場企業49社の保有量は合計100万BTCを超える。両者だけで流通BTCの約12%を握る。
2018年や2022年には存在しなかった巨大な保有主体である。
興味深いことに、弱気なGalaxyも「4年サイクルは残っているが、振幅は縮小している」と分析している。FidelityとGalaxyは完全な正反対ではない。両者とも「過去と同じ80%暴落を機械的に当てはめるべきではない」という点では重なる。

図3 ビットコインの長期価格推移。2013年、2017年、2021年の大相場の後にはいずれも大幅な下落局面が訪れた。2025年にも史上最高値を更新した(対数表示、TradingView・Bitstamp)
国家とウォール街もBTCを取り込み始めた
市場構造だけではない。政府の姿勢も過去とは大きく違う。
米国では2025年3月、トランプ大統領が「Strategic Bitcoin Reserve」を創設した。犯罪捜査などで政府が没収したBTCを準備資産として保有し、原則として売却しない仕組みだ。
EUはMiCAによって暗号資産を禁止するのではなく、発行者や暗号資産サービス事業者を統一ルールの中に置いた。
日本でも2026年7月15日、暗号資産に関する情報開示、業規制、不公正取引規制などを整備する金融商品取引法・資金決済法の改正法が成立した。主要部分の施行は原則として公布から1年以内の政令指定日であり、全面施行はこれからだが、日本も暗号資産を金融市場の中に取り込んで規制する方向へ進んでいる。
一方、中国は暗号資産関連取引を違法な金融活動とする厳しい姿勢を維持している。
世界中がBTCを歓迎しているわけではない。それでも世界の議論は「BTCを存在させるべきか」から、「存在するBTCをどう金融制度に組み込むか」へ徐々に変わってきた。
機関投資家はBTCをどこまで信用しているのか
だからといって「ウォール街がBTCを全面的に認めた」と考えるのも早い。
BlackRock Investment Instituteは、伝統的な株式60%・債券40%のポートフォリオでBTCへの投資を希望する場合、1~2%程度の配分なら合理的なリスク量になり得るとしている。一方、2%を超えるとBTCがポートフォリオ全体のリスクを急速に支配すると警告している。
機関投資家のスタンスは「BTCは怪しいからゼロ」から、「少額も保有しないリスクを考える」へ変わってきた、と見る方が正確だろう。
そもそも、なぜBTCには価値があるのか
BTCは株式ではない。利益も配当もない。国債のような利息もない。
それでも価格がつく理由として強気派が挙げるのが、「誰にも勝手に増やせない、世界共通の希少なデジタル資産」という性質だ。
供給上限は2100万BTC。中央銀行が金融緩和のために増刷することはできない。世界中へ直接移転でき、特定国家や銀行の信用も必要としない。この性質から「デジタルゴールド」と呼ばれる。
金そのものも株式のようなキャッシュフローを生まない。では、なぜ国家や中央銀行が金を保有するのか。その背景については「中央銀行はなぜ米国債より金を買うのか」で詳しく整理した。
ただし「2100万枚しかないから価値がある」だけでは説明にならない。誰も欲しがらない希少品には価値がない。
BTCの価値を支えているのは希少性だけでなく、巨大な計算能力、利用者、マイナー、取引所、ウォレット、開発者、流動性からなるネットワークである。そして最終的には「これをBitcoinとして価値あるものと認める」という参加者の合意がある。
ここがBTCの強さであり、同時に最大の弱点でもある。企業のように利益から理論価格を計算できないため、この社会的合意が失われれば価格を支えるものも弱くなる。
フォークすれば「2100万枚」の希少性は壊れないのか
Bitcoinのルール変更をめぐって参加者の意見が割れると、ブロックチェーンが別々のチェーンへ分かれることがある。過去にはBitcoin CashがBitcoinから分岐した。
ならば「コピーして別のBitcoinを作れるなら、2100万枚という希少性は嘘ではないか」という疑問が生まれる。
しかしBitcoin Cashが生まれても、BTCと同じ価値にはならなかった。コードはコピーできても、利用者、ハッシュレート、流動性、取引所、ブランド、社会的合意まではコピーできないからだ。
2026年に話題になったBIP-110も、その仕組みを理解する好例になった。BIP-110は、画像などの非金融データをBitcoinのブロックチェーンへ大量に記録することを一時的に制限しようとするソフトフォーク案だった。
8月8日、支持する一部ノードは主要チェーンから少数チェーンへ分岐した。しかしマイナーの支持は極めて小さく、主要Bitcoinチェーンはそのまま稼働を続けた。
むしろ今回の騒動が示したのは、Bitcoinのルールは誰か一人が簡単に変更できないということだ。CEOも中央銀行も存在しない。その変更の難しさそのものが、「2100万枚」というルールへの信頼を支える一因になっている。
では、5万8000ドルが大底だったのか
ここからは筆者の予想である。
現時点では、5万8000ドル前後が完全な大底だったと断定するには早い。今回の上昇には大規模なショートカバーが含まれており、その反動が起きる可能性がある。
一方で、過去と同じように70~80%下落することを前提にするのも危険だ。
| シナリオ | 確率 | 2026年秋 |
|---|---|---|
| 基本 | 50% | 5.2万~6.2万ドル |
| 弱気 | 30% | 4万~5万ドル |
| 強気 | 20% | 6万ドル台以上を維持、8万ドル超へ |
最も可能性が高いと考えるのは、今回の急騰が一服した後、秋にもう一度5万ドル台を試すシナリオだ。ただし直近安値を大幅には更新せず、その近辺で今回のサイクルの最終的な底を形成するとみる。
Galaxyの4万~4万6000ドルも十分あり得るが、中心シナリオには置かない。ETF、企業、政府という新しい長期保有主体が存在し、今回のサイクルでは上昇時の過熱も過去より小さかったからだ。
2027年以降は強気に見る
長期ではむしろ強気に考えている。
中心シナリオは、2026年に底固め、2027年に回復、2028年に次の半減期、2029年に次の本格的な強気局面という流れだ。
あえて中心レンジを置けば、2027年は8万~13万ドル、2028年は10万~18万ドル、2029年は15万~30万ドル程度を想定する。
もちろん、これは予測であって目標価格ではない。特にBTCにはキャッシュフローがないため、株式のDCFのように理論価格を計算できない。規制、世界的な流動性、ETF需要、機関投資家の配分が変われば前提そのものが変わる。
1BTC=100万ドルという超強気予想もある。発行上限2100万BTCで単純計算すれば、100万ドルでは約21兆ドルの規模になる。つまり100万ドル説とは、BTCが将来、金に匹敵する世界有数の価値保存資産になるというシナリオに近い。
不可能とは言えない。しかし少なくとも2020年代の中心シナリオとして置くには、まだ強気すぎる。
「秋まで待てば必ず安く買える」も危険
2026年秋底説には根拠がある。過去3回、BTCはピークから約12~13カ月後に大底を形成した。今回も2025年10月がピークなら、その時計は2026年秋を指している。
筆者も、今回の急騰で弱気相場が完全に終了したとは考えていない。もう一度大きな下押しが来る可能性を最も高く見る。
しかし今回は、現物ETF、上場企業、米政府のBitcoin Reserve、各国の制度整備という過去にはなかった要素が存在する。
Fidelityは従来型の4年サイクルが終わりつつある可能性を指摘する。Galaxyはサイクル自体は残っているが、その振幅は小さくなっていると見る。
現時点では、その中間――「4年サイクルはまだ残っている。ただし、その力は弱くなっている」と考えるのが最も合理的ではないか。
だから2026年秋に確認すべきなのは、単にBTCが4万ドルになるか、6万ドルで止まるかではない。
過去十数年にわたってBitcoinを支配してきた「4年周期」という時計そのものが、まだ動いているのか。
今回の急騰は、その答えを出したわけではない。だが、古い時計が狂い始めている可能性を無視できなくなったことだけは確かである。

